ベクトルバンドルのリー微分

先日 http://www.asahi-net.or.jp/~fu5k-mths/pdf/bundle_lie_and_noether.pdf

を書いたのですが、ベクトルバンドルのリー微分だけ抜粋します。

解析力学は学科ではドチャクソ重要な理論で、それは場のバージョンでもそうなのですが、 物理学では往々にして

「~という議論ができるんですよ(シンプルなコア議論)」

(永遠の開き)

「あの時のコア議論をここで応用します。こんなアナロジーができますね~」

ということが発生するのですが、

そのアナロジー全然自明じゃねえよ

という気持ちになることがあり、場の解析力学はそういう例の一つです。あとグラスマン数の経路積分とか… 基本的なパターンをやっとけば、その任意の変種がいつでもwell-definedでしょみたいな…願望でものを語るのをやめろ… 場のハミルトン形式もアレですよね…まぁあのくらいは汎関数微分とかをきちんと書けばなんとかなるかもですが…

で、長年場のラグランジュ形式の何が不満だったかというと、 Noetherの定理がクソほどもわからない…「場の理論 Noether」とかでググってもらえると、 いろんなのが出てくると思うんですが、だいたい「次の微小変換を考える」とか言ってこんな式が出てきます。

 \displaystyle{
x\mapsto  y = x + dx \\
 \phi(x)\mapsto  \phi(y)=\phi(x)+d\phi
}

は?????????????????

ってなりませんか?僕はなったし、これだから動的型で数式書くやつは何をやっても(ry

物理学者が場の量書くとき、だいたい型書かないじゃないですか、まぁそれは珍しくないんですけど、 場の量が何から何の関数なのかわからんし、xって時空点なのか、座標なのかもわからんし、\phiって成分なのかベクトル値なのかもわからんし、故に変換というのが座標変換なのか幾何的な能動変換なのかもわからないし、 まず\phi(x)って書いたときに、\phi(x)を値まで評価したものが移されるのか、\phi,xって記法が何らかの量化制約を持ってるのかもわからんわけです。 ちなみにわかった今だからいいますけど、これ本当はここで場の量(バンドルセクション)である\phiって記号が登場しちゃいけないんですよ。この変換は一義的にはセクションの変換じゃなくてバンドル自体の変換なので。

それで、これが一体なんなのかわからん限りには、場Noetherがなんであんな形しているのかもわからんわけです。これがベクトルバンドルの自己同型変換の無限小版として完全に幾何的な能動変換として書けることに気づいてブチ切れたので、以上のノートを書きました。

結論からいうと、ベクトルバンドルの自己同型変換生成子みたいなものを定義することができて、それは上のようなものをちゃんと定めるし、Noetherの定理はそこから出てくるものです。

まずベクトルバンドルを定義する必要があるのですが、wikipediaを見て。

ベクトル束 - Wikipedia

各点にベクトル空間がついてて、局所的に成分表示できるようなもの、と認識してください。 ここで「なんや、単なる多成分場やんけ」と思うのはやめてね…多様体がいつでも\mathbb{R}^nの同次元部分集合と思うが如き…

いや実質局所的にはそうなんですが、我々はいま解析力学をやっていて、解析力学座標普遍であることを散々強調するわけです。じゃあちゃんと自明化写像によらないということ、それがどういう意味でかというのをきちんと述べるべきであって、多様体の多の字も出ない教科書は滅ぼすしか無い…

で、バンドルというのは、基本的に底空間への射影\pi:E\rightarrow Mというのも持っています。 なので、ベクトルバンドルの射がこれについての可換図式を満たすことは自然なことです。 底空間の写像にファイバーの行き先が整合的であるということですね。

そして先の謎\mapstoは、まさにこの可換図式なのです。\phiが出てくるのは間違った書き方と言いましたが、正しい書式はこう。

\displaystyle{
g:E_1\rightarrow E_2\\
v\in \pi^{-1}(x)\mapsto g(v)\in\pi^{-1}(f(x))\\
f:M_1\rightarrow M_2\\
x\mapsto f(x)
}

\pi^{-1}(-)は射影の逆なので、各点ファイバーです。これなら秒でわかる。型注釈、所属集合注釈を惜しんではいけない。

ほいで、では場Noetherはなんだったのか、という話になるんですが、要するにリー微分なんですよね。

これは有限次元ラグランジュ理論の時もそうで、自由度空間に対する変換があって、そのリー微分が、 ラグランジュ方程式比例項とNoetherモーメントの微分で書ける、というのがNoetherの定理なのです。

ところで、ベクトルバンドルのリー微分ってなんでしょうか。なんか上手い定義が必要です。 一番馴染みあるベクトルバンドルといえば、ベクトル場、テンソル場、微分形式ですね。 これらには多様体の1パラメータ変換群(の生成子)があれば、リー微分が定義できます。

f:M\rightarrow N多様体の可微分写像としましょう。これの微分がベクトル場のなすベクトルバンドルの射を決めます。それは次のようなものです。

\displaystyle{
df:TM\rightarrow TN\\
v^i\partial_i \in TM_x \mapsto \frac{\partial f^i}{\partial x^j}v^j \partial_i \in TN_{f(x)}
}

これはfを座標空間に引き戻してからそれで微分した微分係数を使いますが、座標によらず定義できます。 これが無限小だとしましょう。十分小さな[tex;\epsilon]を用意してfの座標表示がx^i\mapsto x^i+\epsilon X^iとなります。 X^iはこの変換の生成子です。するとベクトル場の成分変換は

\displaystyle{
df:TM\rightarrow TM\\
v^i\partial_i \in TM_x \mapsto \left(\delta^i_j+\epsilon \frac{\partial X^i}{\partial x^j}\right)v^j  \partial_i \in TM_{x+\epsilon X}
}

これはベクトルバンドルの微小変換が \frac{\partial X^i}{\partial x^j}のような行列で実行されていることを意味します。

しかし、これは変換規則がファイバーの自己変換のようにはなりません。\partial_iがあるせいで、場所に依存する自明化の変換を施すと 変換行列の微分項がでてきます。

逆に言えば、これを組み込んだ変換規則をもつような行列を考えれば良いことになります。ベクトルバンドルの変換なので、 底空間をどれだけ動かすか、という底空間のベクトル場と、ファイバーの成分変換行列の直和で、バンドルの局所自明化ごとに与えられるものを考えます。

\displaystyle{
\{(X,M_a)\}_{a}, X \in \Gamma(TN_{U_a}),M_a\in \Gamma(U\times \mathbb{R}^{n\times n})
}

ここで、a\rightarrow  bのフレーム変換行列:つまりGL(n)値場\Lambda:U_a\cap U_b \rightarrow GL(n)に対して、 次のように振る舞うことを条件に課します。

\displaystyle{
(X,M_b)=(X,(X\Lambda)\Lambda^{-1}+\Lambda M_a \Lambda^{-1})
}

ここでX微分として作用しています。これを課すことで、自明化によらないベクトルバンドルの微小変換を実現します。 では実際にリー微分しましょう。リー微分は、場の量に対して、ある点の値を無限小変換で別の場所に持っていき、行き先にすでにあった量との比較をします。 V\in\Gamma(E)ベクトルバンドルのセクション、つまり場の量としましょう。局所標構(基底ベクトル場)e_iを使って、V=v^i e_iとなっているとします。

\displaystyle{
v^i(x)\mapsto v^i(x)+\epsilon M^i_jv^j(x)
} から \displaystyle{
v^i(x)\mapsto v^i(x+\epsilon X)
} を引いたものなので、一次のオーダーで、 \displaystyle{
-(Xv^i)(x)+M^i_jv^j(x)
}ベクトルバンドルのリー微分となります。実際、Mの変換規則が、これをwell-definedにしています。

あとはノートを参照してください。

やっておいて気になっているのは、物理学者が一体場の量をなんだと思いっているのかということです。 実のところ合意がないような気もします。僕はベクトルバンドルの概念が気に入っているので、それだと思っているのですが、 本気でただの多成分場と思っているのかもしれない。つまり大域的自明化が可能な。

しかしその一方でゲージ場などで自明化によらない云々というのを後付けで導入したりもします。 ただゲージ場はゲージ群なので、一般的なフレーム変換ではないというのはありますが…