確率解析すごい

 気まぐれで伊藤積分と伊藤公式を理解したいなーと思い立って いくつかの本を眺めていたのですが、

確率微分方程式入門 ―数理ファイナンスへの応用― (数学のかんどころ 26)

確率微分方程式―入門から応用まで

理学オタクの性として結局行間が気になってしまい、図書館で

確率微分方程式

確率過程入門 (確率論教程シリーズ)

などをチラ見してウンウンした結果、最終的に「アッアッアッこれはやばいやつや…」となって

巨大な憧憬と将来課題が発生してしまったのでその感想文を書きます。(結局以上の本ほとんど読んでない)

 ちゃんとした議論は今後勉強してなんとかやっていく…というか同志いませんか…?

 というわけで、今把握している限りのおおまかな概要を書いてみます。

 測度論的確率論は、可算要素の「かつ、または」をゆるしたBoole的な束構造を持つ事象の集合に、 確率を整合的に(可算加法的に)割り当てることで表現されます。 この事象束をσ加法族といって、通常ある集合の部分集合族として表現されています。ここでは\mathcal{F}と書きましょう。 この束構造を集合演算で表現した空間を可測空間といい、さらに測度が割り当てられているときに確率空間と言います。つまり3つ組(\Omega,\mathcal{F},P)です。ここで\mathcal{F}\subset \mathcal{P}(\Omega)です。

 確率変数とは、可測空間の間の写像で、その逆像がσ加法族の準同型になるものを言います。例えば、X:(\Omega_1,\mathcal{F}_1)\rightarrow (\Omega_2,\mathcal{F}_2)が確率変数であるためには、X^{-1}:\mathcal{F}_2\rightarrow \mathcal{F}_1が束構造の準同型になっている必要があります。 このσ加法族の準同型という構造は、もともと束構造に事象としての意味があることを考えれば自然なことです。 確率変数は可測写像ともいいます。今は実数値の確率変数を考えます。 実数側のσ加法族は、通常開集合を含むようなものを取ります(これをボレル族といいます)。

 実数値確率変数であれば、ルベーグ積分によって期待値を考えることができます。これを \mathbb{E} [ X] と書きましょう。また、一般に条件付き確率、条件付き期待値を、 \mathcal{F}の部分σ加法族\mathcal{G}\subset \mathcal{F}に対して考えることができます。 条件付けにつかう観測が、\mathcal{F}よりも小さい、つまり部分的な観測であることを考えれば自然なことです。 これを\mathbb{E} [ X|\mathcal{G}] と書きましょう。

 確率過程は、適当な時間パラメトライズされた確率変数の族X(t):\Omega\rightarrow \mathbb{R}といってよいのですが、 この場合は時間の経過とともに新しい現象が起きる=新しく問い合わせ可能な事象が増えていくので、 背後にあるσ加法族自体が時間とともに大きくなっていくと考えるのが自然です。つまり時間順序に従った包含関係にあるσ加法族の族があると考えます。

\{\mathcal{F}_t\}_t,\mathcal{F}_s \subset \mathcal{F}_t \; (s \le t)

 これをフィルトレーションといい、確率過程X(t)がフィルトレーションに適合する、とは、時刻tの確率変数X(t)\mathcal{F}_tについて可測なこととします。 確率変数X(t)に関する性質の問い合わせが時間t以降には可能になっている、と考えれば自然なことです。

 確率過程を考えるのはもちろん何か表現したり解析したりしたいものがあるからですが、 それらに連続性を期待できる場合があります。そこで連続な確率過程というものを考えます。 定義としては、確率1で(\lambda t.X(t)(\omega))がtについて連続になるようなものです。 さらにここから二種類の確率過程のクラスを考えます。

 ひとつはマルチンゲールといって、 任意の時刻sからのt>sまでの条件付き増分の期待値がゼロになるものです。 つまり、ある意味でフェア、任意の時点から次の瞬間どちらに転ぶかは期待値の意味で50:50であるような過程です。

\mathbb{E}[M(t)-M(s)|\mathcal{F}_s]=0

 もう一つは局所有界変動、つまり任意の時間区間で、変動が有界になるものです。 変動とは、直感的にはその関数が正負にどれだけ動いているかという量です。

|| A(\omega)||_{[s,t]} \lt \infty

 そして確率解析が扱う過程として、この2つが組み合わさったものを考えます。

X(t)=X(0)+A(t)+M(t)

 これをセミマルチンゲールと呼びます。 セミマルチンゲールのこの表式は、実は曖昧さなく決まります。 局所有界変動かつ連続マルチンゲールな確率過程は、定数しか無いことが知られているためです。

 セミマルチンゲールはいわば、「概ねゆるやかに推移していく」A(t)と、「平均ゼロだが激しく震える」M(t)による過程です。 震え、といいましたが、確率過程の「激しい震え」をどのように評価すればいいでしょうか? マルチンゲールの変分dM=M(t+dt)-M(t)を考えましょう。これは平均すればゼロですが、 分散を計算するときのように、二乗して総和をとったらどうでしょうか?

\sum_i dM_i^2

もし、このdMdt程度であれば、\sum_i dt^2は細分極限で消えてしまいます。 しかし一般に確率過程では、「激しく震える」部分が蓄積されてのこります。 これは標語的な言い方ですが、停止時間などを駆使することで、マルチンゲールMに対して

\langle M \rangle = \int dM^2

のようなものを定義することができます。これは同一のMだけではなく、一般に

\langle M_1, M_2 \rangle =\int dM_1 dM_2

のようなものを定義することができます。このとき\langle M,M\rangle = \langle M \rangleです。これを二次変分過程と呼びます。

 そして二次変分過程は、局所有界変動になります。つまりマルチンゲールの微小変化を掛け合わせて蓄積すると局所有界変動に戻ってきます。

 さて、様々な文脈で、確率過程で確率過程を積分したい、ということが出てきます。 もし確率過程ではなく関数であれば、これはリーマンスティルチェス積分を定義したい、ということになります。 つまり、関数f,gにたいして \int f dgを考えればよいです。 これはどのように構成したかというと、時間を区分分割して、gの差分とfの区間代表値の積の総和の極限を取りました。

 \int  f dg  = \lim_{|dt|\rightarrow 0} \sum_i f(s_i)(g(t_{i+1})-g(t_i)),\; (s_i\in [ t_{ i } ,t_{ i+1 } ] )

f,gがある程度良い性質を持っていれば、(例えばfが区分的連続でgが連続有界変動) このときの代表値のとり方や区分分割のとり方によらず、細分極限で積分値が決まります。

 確率過程のときはどうでしょうか? もし局所有界変動であれば、普通の関数のときと同じことを\omegaごとに行えば大丈夫です。 しかしマルチンゲールのときはどうでしょうか?今度は有界変動ではありません。 そして実はこのせいで、同じようにリーマンスティルチェス積分をしようとすると、 被積分過程の区間代表値の選択に依存してしまうのです。 したがって、区間代表値のとり方を固定しなくてはいけません。 これを各区間の左端に固定した結果として伊藤積分が定義されます。

I_M(\phi)(t)=\int_0^t \phi dM=\lim_{ |dt|\rightarrow 0 } \sum_i \phi(t_i)(M(t_{i+1})-M(t_i))

マルチンゲールによる伊藤積分は常にマルチンゲールになることが知られています。

そして、伊藤積分と二次変分過程に次の関係が成り立ちます。

\langle I_M(\phi),I_N(\psi)\rangle(t) = \int^t_0 \phi\psi d\langle M,N\rangle

おわりー!(CV鳩羽つぐ)

 以上はいくつかの本を見て拾った事実の羅列ですが、おそらくピンと来ないと思います。

 そこで、これらの「解釈」、オハナシをしたいと思います。

これ本当は普段(物理とかの)フワッと議論をdisってる身からすると言動不一致じゃねぇかと言われそうなんですが、

 不完全な言い方であることは重々承知である、という但し書きはした、という言い訳をした上で(?)

 あるいは以下の標語的なオハナシが上のように実現されることこそが重要、という立場なんだ、とした上で(??)

 おもくそフワッとした解釈をしようと思います。許せ。

 マルチンゲールと局所有界変動は、「制御できない純粋なランダム性」と「大まかな挙動」を表しています。 この内、マルチンゲールが問題です。マルチンゲール微分できません。 先に述べたように、非自明なマルチンゲール有界変動ではありませんから、 どれだけ短い時間で見ても、ずっと確率的に揺らいでいるために微分が定義できないのです。 しかし現実に確率過程で表現したい系は、何らかの発展方程式を持っていて、つまりどういうわけか「微分」できて、 「制御できない純粋なランダム性」つまりマルチンゲールの、「微分」に毎時影響されて発展しているように見えます。

ここでやりたいことはいくつかあります。

手元に別の確率過程や、あるいは過去の観測結果によって現在の系への働きかけをするためのポートフォリオがあるかもしれません。 それによって、このマルチンゲールを変換ないし、相互作用させた結果を知りたいとしましょう。 これは毎時毎時の相互作用、ないし操作ですから、発展方程式を書き換えることになります。 あるいはマルチンゲールによるノイズ源の影響下で、系の発展方程式自体を提案しているという状況かもしれません。 いずれにせよ、ここでは系の発展方程式に現れる、マルチンゲールの「微分」に、 手元にある確率過程を「掛け算」する、という操作をしたいわけです。 いわば標語的には

\phi(t) \frac{d}{dt}M(t)

が意味をもってほしい。しかし\frac{d}{dt}M(t)を得ることができないので、実際にはこの蓄積

\int_0^t \phi(s) \frac{d}{ds}M(s) ds = \int_0^t \phi(s)dM(s)

を定義することで相応のことを実現するのです。これが伊藤積分です。 つまり伊藤積分は、マルチンゲールの「導関数への掛け算」です。

もう一つ、ランダム性は、例えば熱浴の温度のように、「パワー」があります。 言ってしまえばランダム性の強さみたいなものです。これをどうやって測ればいいでしょうか? つまり、マルチンゲールの「微分」係数の大きさ(2乗)がほしいのです。 もっというと、微分」のL2内積がほしいのです。 マルチンゲール微分は、ある瞬間の、「時間あたり系に加わる確率ゆらぎ」のようなものでしょうから、 もし複数のマルチンゲールがあれば、その瞬間の「時間あたり系に加わる確率ゆらぎの相関」みたいなものが計算できてほしいのです。 これを自己相関にとれば、パワーにほかなりません。 しかしここでもやはりマルチンゲール微分できない。 そこで標語的に \int^t_0 dM^2,\int dM_1 dM_2に相当する二次変分過程

\langle M_1, M_2 \rangle(t)

を使います。これは標語的に\int^t_0 dM_1 dM_2と言いましたが、これによって本当に実現したいものの気持ちは

\int_0^t \frac{d}{ds}M_1(s) \frac{d}{ds}M_2(s) ds

です。つまり二次変分過程は、マルチンゲールの「導関数のL2内積です。

それでは、

\langle I_M(\phi),I_N(\psi)\rangle(t) = \int^t_0 \phi(s)\psi(s) d\langle M,N\rangle(s)

という公式は一体なんでしょうか? これは数式の見た目が内積の記法に似ていますね。 この式がtで微分できたら一体どんな式になるでしょうか? ここまでにゴタゴタ抜かした「オハナシ」が成り立っているとしましょう。

左辺の微分

\frac{d}{dt}\langle I_M(\phi),I_N(\psi)\rangle(t)

=\frac{d}{dt} (\int_0^t \phi(s)\frac{d}{ds}M(s) \psi(s)\frac{d}{ds}N(s) ds)

=\phi(t)\frac{d}{dt}M(t) \psi(t)\frac{d}{dt}N(t)

右辺の微分

\frac{d}{dt}\int^t_0 \phi(s)\psi(s) d\langle M,N\rangle(s)

=\frac{d}{dt} \int^t_0 \phi(s)\psi(s) \frac{d}{ds}\langle M,N\rangle(s)ds

=\phi(t)\psi(t) \frac{d}{dt}\langle M,N\rangle (t)

= \phi(t)\psi(t) \frac{d}{dt}M(t)\frac{d}{dt}N(t)

!?

自明では??????????

というわけで確率解析をやりましょう(同志募集中)。